コラム

在宅勤務推進にかかる税務

税務

日本の労働市場は少子高齢化によって縮小傾向にあり、人材の獲得や定着は企業にとって重要な課題となっています。欧米では、新型コロナウイルス感染拡大以前からWLB(ワークライフバランス/仕事と生活の調和)という考え方にもとづいて在宅勤務や時短勤務を推奨しています。WLBの充実はストレスの軽減/精神的・肉体的・建設的思考・生産性の向上などにおいて有用であるといわれています。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛により、大企業を中心に在宅勤務の導入が浸透しています。中小企業者限定の制度であるテレワーク等のための設備投資税制について取り上げるとともに、在宅勤務に必要な費用の取り扱いについての国税庁の基準についてもご紹介いたします。
 

 
■テレワーク等のための中小企業の設備投資税制
中小企業経営強化税制とは、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得や製作等した場合に、即時償却又は取得価額10%の税額控除(資本金3,000万超1億円以下の法人は7%)が選択適用できるものです。
これまで、生産性向上設備(A類型)、収益力強化設備(B類型)が対象になっていましたが、新たにデジタル化設備(C類型)が対象に加わりました。
 
〔 対象設備 〕
デジタル化設備とは、下記のいずれかに該当する投資計画を達成するために必要不可欠な設備です。
 
1. 遠隔操作
⑴ デジタル技術を用いて、遠隔操作すること。
⑵ 以下のいずれかを目的とすること。
 (A) 事業を非対面で行うことができるようにすること。
 (B) 事業に従事する者が、通常行っている業務を、通常出勤している場所以外の場所で行うことができるようにすること。
 
2. 可視化
⑴ データの集約・分析を、デジタル技術を用いて行うこと。
⑵ ⑴のデータが現在行っている事業や事業プロセスに関係するものであること。
⑶ ⑴により事業プロセスに関する最新の状況を把握し経営資源等の最適化(※)を行うことができるようにすること。
※「経営資源等の最適化」とは、「設備、技術、個人の有する知識及び技術等を含む事業活動に活用される資源等の最適な配分等」をいいます。
 
3. 自動制御化
⑴ デジタル技術を用いて、状況に応じて自動的に指令を行うことができるようにすること。
⑵ ⑴の指令が現在行っている事業プロセスに関する経営資源等を最適化するためのものであること。
 
■在宅勤務の非課税基準
 在宅勤務を行う従業員に対し在宅勤務に必要な費用として在宅勤務手当を支給する企業も増えつつあります。
国税庁は今年の1月15日付けで「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」を公表し、企業が従業員に当該手当を支給した場合や費用負担を行う場合の給与課税の有無について、その取扱いを明らかにしました。FAQでは、企業が従業員に対し在宅勤務に必要な費用を支給する場合、その費用の実費相当額を精算する方法によるものであれば、従業員に対する給与として課税する必要はないとしました。
 
■精算方法について
①企業が従業員に仮払いした後、その費用に係る領収証等とともに従業員が精算する方法(超過分は企業へ返還)
 
②従業員が立替払いした後、その費用に係る領収証等とともに実費を精算する方法が考えられますが、事務用品費はともかく通信費や電気料金については、業務のために使用した部分を明確に算定するのは困難です。
そこでFAQ では「インターネット接続に係る通信料(基本使用料やデータ通信料など)」のうち「業務のために使用した部分」として、例えば以下の【算式①】により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えないとしています。
 
【算式①】
業務のために使用した基本使用料や通信料等=[従業員が負担した1ヶ月の基本使用料や通信料等] × [その従業員の1ヶ月の在宅勤務日数/該当月の日数] × 1/2※
※1日(24時間)のうち睡眠時間(平均8時間)(総務省統計局)を除いた時間(16時間)に占める労働時間(法定8時間)の割合
 
【算式②】
業務のために使用した基本料金や電気使用料 = [従業員が負担した1ヶ月の基本料金や電気使用料] × [業務のために使用した部屋の床面積/自宅の床面積] × [その従業員の1ヶ月の在宅勤務日数/該当月の日数] × 1/2 (根拠は【算式①】と同様)
 
人材の獲得・定着のためにこれらの制度を利用して、今、在職しておられる従業員の方たちのWLBの向上に加え、生産性向上のためにも在宅勤務の導入を考えてみてはいかがでしょうか?

その他関連コラム