コラム

インボイス制度における経過措置と特例

税務

令和5年10月1日にスタートした適格請求書等保存方式(インボイス制度)。今回はそのインボイス制度の経過措置や特例についてご説明いたします。

(1)免税事業者を対象とした届出関係に関する経過措置

免税事業者が適格請求書(以下、「インボイス」)発行事業者の登録を受けるためには、原則として、「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になる必要があります。また課税事業者の選択は、課税期間単位(個人であれば1月1日~12月31日、法人であれば事業年度)で行うものですので、原則はインボイス発行事業者の登録も課税期間に合わせて行います。

しかし、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間において登録を受ける場合には、インボイス発行事業者の登録申請書に登録希望日(提出日から15日以降の登録を受ける日として、事業者が希望する日)を記載することで、その登録希望日から課税事業者となる経過措置が設けられています。そのため、この経過措置の適用を受ける場合は、登録希望日から課税事業者になるため、課税選択届出書を提出する必要はありません。

なお、この経過措置の適用を受けて適格請求書発行事業者の登録を受けた場合、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から課税期間の末日までの期間について、消費税の申告が必要になります。

 

<注意点>

ただし、この経過措置について一つ注意点があります。この経過措置の適用を受ける登録日の属する課税期間が、令和5年10 月1日を含まない場合は、登録日の属する課税期間の翌課税期間から登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、免税事業者になることはできないのでご注意ください。

 

(2)免税事業者等からの仕入れに係る経過措置

インボイス発行事業者以外の相手(消費者、免税事業者、インボイス登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れは、原則として、仕入税額控除を適用できません。

ただし、令和11年9月30日までの期間は、インボイス発行事業者以外の相手からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の以下の割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置があります。

 

  

 

※なお、この経過措置の適用を受けるためには、次の事項が記載された帳簿と請求書等の保存が必要になりますので、ご注意ください。

 

<帳簿>

①課税仕入れの相手方の氏名または名称

②課税仕入れを行った年月日

③課税仕入れに係る資産または役務の内容及び、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨

 (例えば、「80%控除対象」などの記載)

④課税仕入れに係る支払対価の額

 

<請求書等>

① 書類の作成者の氏名または名称

② 取引年月日

③ 課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容(軽減対象資産の譲渡等の場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)

④ 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額(10%、8%)

⑤ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名または名称

 

(3)一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)

少額(税込1万円未満)の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるというものです。

これは取引先がインボイス発行事業者であるかどうかは関係なく、免税事業者であっても同様です。また少額の課税仕入れについて、インボイスの保存を不要とするものであり、インボイス発行事業者の交付義務が免除されているわけではありませんので、インボイス発行事業者は課税事業者からインボイスを求められた場合には交付する必要があります。

ただしこの少額特例の適用対象者は、 基準期間(個人であれば前々年、法人であれば前々事業年度)の課税売上高が1億円以下または特定期間(事業開始の日以後6ヶ月)の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限られています。

 

※少額特例の適用対象期間は、令和5年10月1日~令和11年9月30日となります。

 

<判定単位>

「税込1万円未満の課税仕入れ」に該当するか否かについては、一回の取引の課税仕入れに係る税込金額が1万円未満かどうかで判断するため、課税仕入れに係る一商品ごとの金額により判断するわけではありません。ですので、5,000円の商品と8,000円の商品を同時に購入した場合は、合計12,000円になるため、少額特例の対象にはなりませんのでご注意ください。

 

 

(4)小規模事業者に対する納税額に係る負担軽減措置(2割特例)

インボイス制度を機に、免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合、その事業者を対象に、仕入税額控除の金額を、特別控除税額(課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額)とすることができるという特例です(2割特例)。

 

<適用対象者>

前述の通り、2割特例はインボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった方が対象です。

そのため、「基準期間における課税売上高が1千万円を超える事業者の方」「資本金1千万円以上の新設法人」「調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った事業者の方」など、インボイス発行事業者の登録と関係なく事業者免税点制度の適用を受けないこととなる場合や、課税期間を1カ月または3カ月に短縮する特例の適用を受ける場合などについては、2割特例の対象とはなりません。また2割特例は、一般課税と簡易課税のいずれを選択している場合でも適用可能です。すでに簡易課税制度選択届出書を提出している場合でも取り下げる必要はありません。

 

<適用期間>

令和5年10月1日~令和8年9月30日までの日の属する課税期間になります。

 

<適用方法>

事前の届出は不要で、消費税の申告時に消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用を受けることができます。また2年間の継続適用といったルールもありません。

 

<注意点>

①令和5年10月1日~令和8年9月30日までの日の属する課税期間であっても、以下の場合は2割特例の適用を受けることができません。

 ◆消費税課税期間特例選択届出書の提出により、課税期間を一月または三月に短縮している課税期間(当該届出書の提出により一の課税期間とみなされる課税期間を含みます。)

 ◆令和5年10月1日より前から、消費税課税事業者選択届出書の提出により引き続き課税事業者となる同日を含む課税期間

 

②2割特例の適用に当たっては、消費税の申告を行う都度、適用を受けるかどうかの選択が可能ですが、申告する課税期間が2割特例の適用対象となる課税期間である必要があります。
2割特例は、インボイス発行事業者の登録がなかったとしたならば、消費税を納める義務が免除されることとなる課税期間を対象としていますので、例えば、基準期間における課税売上高が1千万円を超えるような課税期間については適用することはできません。
また令和4年中に「消費税課税事業者選択届出書」と合わせて、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、令和5年1月から消費税の課税事業者となったことにより、令和5年分について2割特例の適用を受けることができない事業者においても、令和4年分の課税売上高が1千万円以下である場合には、原則として、令和6年分について2割特例を適用することができます。

 

③2割特例は、一般課税と簡易課税のいずれを選択している場合でも、適用することが可能です。そのため、簡易課税制度の適用を受けるための届出書を提出していたとしても、申告の際に2割特例を適用することが可能です。

 

今回はインボイス制度の経過措置や特例についてご紹介いたしました。

インボイス制度に関するご相談はCROSSROADグループにご連絡ください。

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